Q&A で学ぶ 子供の成長とスマホ
私たちは新しい「リアル教育」を目指して、スマホを「持たせたくない」保護者を応援します。
ゲーム依存の少年の脳に認められた繊維の変化。脳の中央から前方(前頭葉)に向かう神経線維の破壊(赤色)がみられる。緑色が正常。Lin et al., PLoS One. 2012; 7(1): e30253.
Q: WHOがゲーム障害を病気を認めたわけは?
2019年、WHOはゲーム依存症をゲーム障害として正式に疾患と認めました。私(当学会 磯村)はその直前に、立役者の一人の樋口進久里浜医療センター院長から裏話をうかがったことがあります。当初、WHOの担当者たちは前回の改定時に見送られたゲーム障害を「今度こそは」とやる気満々でした。ところが、最終決定日が近づくにつれて、次第に慎重派が増えていったといいます。舞台裏で業界側から激しい切り崩しが行われていたらしいのです。樋口先生から、ひっくり返されるのではという大変な危機感が伝わってきました。こうした中での正式決定だったようです。
これは何を物語っているのでしょう。業界側の激しい工作にもかかわらずゲーム障害が認定されたのは、彼らをもってしても誤魔化し切れない確固たる科学的な根拠が出ていたからだと思います。
それはゲームによる脳の変化です。メタアナリシス(多数の論文の結果を総合して判定する)と呼ばれる最も信頼度の高い研究を含め多数の研究により、ゲーム依存症の患者の脳では、コカインなどの薬物依存と同等の変化が起きていることが、繰り返し示されていたのです。
つまり、ゲーム障害をWHOが疾患と認めたことを意外なニュースと受け止める人もありますが、実は、業界も認めざる得ないほど、ゲーム障害に関するデータは積みあがっていたのです。
14才の少年にチョコレートを与える実験。非喫煙少年(上図)ではドーパミンの分泌(赤色)を認めるが、喫煙少年では認めない。喫煙少年はチョコをもらってもさほど楽めないことがわかる。この変化は喫煙開始後10~20本で生じる。Peters J, et.al . Am J Psychiatry 168:540-549, 2011
Q: ゲームやスマホにより脳はどうなるのですか?
アルコール・薬物・ギャンブル・ネット・ゲームなどの依存症には、
共通する以下の3つの脳の変化がみられます。
[1] 依存対象に対する脳神経の過敏化
いったん始めるとやめるのが困難。
長期間止めていても再使用すると元に戻ってしまう。
過敏化(止まらない回路: hypersensitization )は終身続く。
[2] 前頭前野の機能低下
理性的な自己制御ができなくなる。切れやすく我慢できない。
(冒頭の図参照)
[3] ドーパミン神経の機能低下
物事を楽しんだり興味を持つことができず毎日がつまらない。
やる気が出ない。
Q: 車にも便利さと危険があるように、スマホも一つのツールであり、使い方の問題なのでは?
車には危険性があっても依存性はない。用もないのに毎晩車に乗り遅刻を繰り返したり、ガソリン代で借金がかさむ、という人はいるだろうか。対してスマホは依存性を有しているので、使い方を注意したとしても、前頭前野の機能低下や止まらない回路の形成など脳の変化が生じるため、適切な使い方ができなくなってしまう。
また依存症には回復はあっても治癒はないことを考えると、子どもにとっては利点と比べて欠点が大きすぎる。
実際、大人のギャンブル依存と子どものゲーム依存とでは、子どものゲームの方が、格段に治療が困難である。それは脳の発育から見ても、ある程度自己コントロールができる大人と比べ、子どもの場合は嫌なものは嫌と治療を拒否してしまうためである。
参考図書 佐々木成三著
あなたのスマホがとにかく危ない
Q: 緊急連絡に便利だし、これからの時代、子どもがスマホを使うことは避けられないのでは?
緊急時の連絡手段が欲しい。当然の気持ちと思います。ただ、その目的としては、必ずしもスマホである必要はありません。メールと通話機能に特化した「子どもケータイ」で十分です。
物騒な事件もあるし、という人もいます。帰りが遅く心配したが、スマホで連絡が取れホッとしたとかですね。しかし、犯罪の発生を防ぐ目的ではスマホの力は限られます。むしろ、スマホを持っているからと、以前は避けていたような危険にも子どもを晒しがちになります。子どもも「スマホで連絡する」と親が予定を尋ねてもいちいち説明しなくなります。こちらから連絡しようにも、LINEも通話も応答なし、なんて珍しくもありません…。
それどころか、子どものたった1つの投稿から誘拐やストーカーが始まります。
また、防犯で与えたはずのスマホが犯人に悪用され事件に気づくのが遅れたり、初期捜査が誤った方向に誘導される危険すらあります。GPSで分かるのはあくまでスマホの位置だけです。
親としては,「家族はみんなLINEでやり取りしている。だからLINEが使えた方が楽」。気持ちはわかります。でも、大人や家族の「楽」ってそこまで大事なものなのでしょうか…。
Q: フィルタリングを使えば安全では?
→ 実はLINEは *法地帯!
子どもはLINEをしたがります。スマホを持ちたい理由の第一はLINEでしょう。ところが、LINEを使えるようにしてしまうと、フィルタリングは実質的に無効になってしまいます。なぜならLINEに表示されたサイトにはフィルタリングが機能しないからです。これは、いわゆるサードパーティーと呼ばれるYouTubeやTwitter, Instagramなども同じです。
また、たとえLINEの時間を30分に制限しても、LINEから動画に入れば何時間でも見ることができます。ゲームアプリを制限してもSuper App上でできてしまいます。
あん*んフィルターで、安心と思っているのは親ばかり。子どもたちはよ~く知っています。
この問題は何年も前から指摘されていますが、LINE側が対応する必要があり、LINEにはそのつもりはなさそうです。現状では対処策はありません。
ご心配な人へ、詳しい記事がこちらにあります。
Q: 早くからスマホを与えて、デジタルに慣らすことも必要では?
これは、特に年配の、自分自身ではスマホの扱いになれない人たちが強く感じることのようです。その気持ちはよく分かります。しかし、その心配は全くありません。
赤ちゃんでも、知らないうちに親のスマホのパスワードを外してアプリを立ち上げたり、驚異的な興味と集中を示し「上達」します。問題はその結果、健常な発達が損なわれることです。内斜視、運動能力の低下など分かり易いものばかりではありません。
例えば、幼少時からスマホを使いこなしてきたからこそ、目を見て話せない、恥ずかしてくて質問ができない。その結果、人間関係を作ることが苦手になり、生身の人間理解が未熟なままネット情報だけで信用してしまい、犯罪に巻き込まれる。逆にネット上では強気になり誹謗中傷を繰り返す、といったことです。
特に2歳以下では、言葉の発育・社会性の発達・愛着の障害が起きることが明らかとなり、日米の小児科医会では、乳幼児のスクリーン禁止を推奨しています。なぜならば、こうした発達上の障害に対して医学にできることはほとんどないからです。
Q: スマホを遅らせる努力中の保護者の声は?
Q: 学習に役立つ使い方もあるのでは?
教育産業大手のベネッセは専用タブレットによる「しまじろう」「進研ゼミ」などを提供していますが、10年前と現在ではそのタブレットに大きな違いがあります。それは、10年前は、ネットで他のサイトや動画が見れたのです。しかし、現在はベネッセのプログラム以外のサイトには一切つながりません。
なぜそう変えたのでしょうか。それは、他のサイトにつながると学習の妨げになることを学んだからでしょう。妨げどころか、ゲームやネット依存になる危険を避けることは困難です。親は勉強していると安心していると実は…というわけです。クレームが殺到したのかもしれません。
そもそも、紙のテキストの方がタブレットより理解も記憶も優れていることが明らかとなっており、世界的にもICT教育の見直しが始まっています。ロンドンではタブレットを紙に戻した学校もあると新聞報道されています。
また、米国のフィラデルフィアの追跡調査ではタブレット導入により地域の成績の低下が生じ、特に貧困層での低下が著しく教育格差が広がったとの報告もされています。